『けいおん!』の思い出

 私にとって『けいおん!』は何よりもまず洋食器のアニメである。洋食器の扱いについてこれほど洗練されているアニメを私は他には知らない。とりわけマイセンの「波の戯れ」を扱った1話と6話のカットは印象深い。以下、いくつか見てみたい。
 

f:id:hartmann13:20160717182245j:plain

 本編1話。湾曲した飲み口とソーサーの曲線がこれ以上ないというバランスで描かれている。実際のカップと比べると、持ち手側飲み口の傾斜がきつくなっているが、それがまた「つん」とした面を強調して独特の雰囲気を醸している。隣にあるのは赤と黒のラズベリーと生クリーム、生地はスポンジとパイだろう。生クリームがきちんと柔らかそうに描けていたり、生クリームの白と陶磁器の白がしっかり分けられていたり(素晴らしい!)、このカットに対する力の入れ方がうかがえる。物語の上では、軽音部を見学していた主人公の平沢唯が、軽音部員の演奏を聞く・・・という場面で、音楽が流れている間にいくつか学校の風景を映したカットが入る。この洋食器はそうしたうちの1つだと記憶している。他の風景は忘れてしまったが、この陶磁器の曲線と白さが頭に残っている。ただただ美しい。
 

f:id:hartmann13:20160717182310j:plain

 
 「波の戯れ」を同じ構図でもう1つ。6話で学園祭の準備が終わった時に部室で出されたティーセット。1話に対して、こちらはやや青みがかった白になっていて、ポットが窓からの光を反射して輝いている。隣の洋菓子はフィナンシェ。1話は放課後の場面なのに対してこちらは真昼の時間帯。カップの湯気も含めて、光の質感の違いと、それを小道具に反映させようという姿勢が伝わってくる。「波の戯れ」は『けいおん!』および続編の「けいおん!!」全編にわたって、忘れかけた頃に登場してくる名脇役的小道具だ。
 

f:id:hartmann13:20160717182423j:plain

 趣向を変えて和菓子。ヘレンドの「チューリップの花束」とカステラ。前の2つが食器を正面から描いていたのに対し、こちらは俯瞰するような構図を用いている。ソーサーやプレートの凹凸の線による表現や、カップの持ち手の特徴的なディテール(さすがにこれは尖りすぎか)など、表面の立体感を出すための工夫がいろいろ行われている。その一方でチューリップの花束は犠牲になったようで、たいぶ簡略化された作画になっている。金と青紫の菓子楊枝がとても格好いい。作中では、中間テストまでの日数を表すためにいくつかのカップが連続で映されたうちの1つとして登場した(ように覚えている)。
 
 ウェッジウッドロイヤルコペンハーゲンといった「大物」は残っているが、とりあえずはこんなところか。こうした小道具が作中でどのような役割を果たしている(あるいはそんな機能など一切ない)のか、今はわからない。ただこれらのカップたちの美しさは私にとって確かなものである。いまこれほどまで食器の描写に労力を注いでくれている作品があるだろうか。誰か知っていたら教えてほしい。